観測史上最大のブラックホール合体を検出 重力波が明らかにする宇宙の謎

GW231123のデータ

太陽の百倍を超えるブラックホール同士が衝突・合体したとする観測結果を2025年7月、国際研究チームが発表しました。

2つのブラックホールの質量は、それぞれ太陽の約103倍、約137倍と推定され、合体後の質量は、太陽の約225倍にも及ぶとされます。

この現象は「GW231123」と呼ばれ、アメリカの重力波観測装置「LIGO」が2023年11月、合体によって生じた重力波を検出しました。観測したのは、LIGOとヨーロッパの「Virgo」、日本の「KAGRA」が連携した国際的なネットワークのLIGO-Virgo-KAGRA(LVK)共同研究チームです。

今回のブラックホール合体は、重力波での検出としては観測史上最大のものです。これまで、これほど重いブラックホールが自然に誕生することは、理論的には難しいとされていました。

ブラックホールの「質量ギャップ」

通常、太陽の何倍もの重さを持つ星が死を迎えると、中心が潰れてブラックホールになります。

しかし元の星が重すぎると、「ペア不安定性超新星(PISN)」という現象が起こり、星そのものが跡形もなく吹き飛んでしまいます。このため、太陽の約60~130倍の質量を持つブラックホールは理論的に「できにくい」とされ、この範囲は「質量ギャップ」と呼ばれてきました。

ところが今回観測された2つのブラックホールは、まさにそのギャップ内に位置しています。どうしてこのようなブラックホールが存在するのでしょうか?

合体による“連鎖進化”の可能性

研究チームは、次のようなシナリオを想定しています。

これらのブラックホールは最初から重かったのではなく、元々は太陽の数十倍程度のブラックホールだったと考えられています。

それが何度も合体を繰り返すうちに、質量が「成長」していったというわけです。

つまりブラックホール同士が出会い、次々と合体を繰り返す「連鎖反応」のような現象です。

こうした成長の過程は光を出さないため、従来の望遠鏡では、とらえることができませんでした。

重力波が「見えない宇宙」を映し出す

この謎に光を当てたのが、重力波です。

重力波とは、宇宙の「時空間」のゆがみが波のように伝わる現象です。その存在は、アインシュタインが1915年に予言しました。しかしあまりにも微弱なため、人類がそれを直接観測できたのはつい最近のことです。

2015年、LIGOが初の重力波検出に成功。このときも、ブラックホールの合体によって生まれた波でした。

今回観測された重力波の振幅は、地球と太陽の距離が水素原子1個分ずれる程度のわずかなもの。それほど繊細な揺れを見つけ出すには、レーザー干渉計と呼ばれる装置が必要です。レーザー干渉計とは、レーザー光を利用して微小な距離を非常に高い精度で測定する装置です。

成長するブラックホール

これまでブラックホールといえば、大量の物質を吸い込み、高エネルギーの光を放つ存在でした。

しかし重力波の発見は、新たな視点をもたらしました。光を出さず、静かに合体を重ねていく「影のようなブラックホール」の存在が示されたのです。今回のような観測が重なることで、ブラックホールの進化の道筋は、大きく書き換えられるかもしれません。

GW231123の発生地点は、地球から最大120億光年先とされています。これは、宇宙がまだ若かった時代に起きた現象ということになります。

もしも、このような合体が宇宙のあちこちで起きていたとしたら――わたしたちの想像を超える「ブラックホール宇宙」が広がっているのかもしれません。

<情報参照元>
https://natgeo.nikkeibp.co.jp/atcl/news/25/072200404/
https://arxiv.org/abs/2507.08219

写真: LIGO(ハンフォード)(左図)と LIGO(リヴィングストン)(右図)で観測された GW231123 の重力波信号のデータ。時間に沿った観測データの振幅をグレーで、波形モデルによって得られる重力波信号の予想値を水色で表しています。下図は重力波信号の振幅の時間(横軸)と周波数(縦軸)変化を表しており、明るい色はより強い重力波信号を表しています。(c) LIGO-Virgo-KAGRA(LVK)共同研究チーム

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