
地球から50億光年の彼方で、超巨大ブラックホールが見つかりました。その質量は、実に太陽の360億倍にも及びます。
これまで知られているブラックホールの中でも最大級で、まるで宇宙に潜む巨獣を発見したかのようですね。
巨大な重力が映し出した「宇宙の馬蹄」
この巨獣が潜んでいたのは、「コズミック・ホースシュー」と呼ばれる領域。名前の通り、馬蹄形の光の輪が見える美しい天体で、この光の輪は「重力レンズ」という現象によって生まれたものです。
重力レンズは、巨大な銀河や銀河団の重力が、背後にある銀河の光を曲げ、まるでレンズのように拡大して映し出すのです。
今回の観測を行ったのは、英国やブラジルの天文学者を中心とした国際研究チームです。ハッブル宇宙望遠鏡の鮮明な画像に加えて、南米チリにあるヨーロッパ南天天文台の超大型望遠鏡「VLT」に搭載された分光装置MUSEを駆使し、銀河の中心部を詳しく調べました。
その結果、中心部の星々が秒速400キロという驚異的な速さで運動していることが判明。これほどのスピードを生み出すには、太陽数百億個分もの重力源が必要だと分かったのです。つまりそこには、想像を絶するほど巨大なブラックホールが存在していたのです。
銀河の合体が生んだ巨獣の正体
さらに驚くべきことに、この銀河は「化石群銀河」と呼ばれる種類。かつて複数の巨大銀河が次々と合体し、最終的にひとつの巨大銀河へと進化した結果と考えられます。その過程でそれぞれの銀河の中心にあったブラックホールも融合し、今回の怪物級の存在が生まれた可能性が高いのです。
もともと研究チームは暗黒物質(ダークマター)の分布を探るために観測をしていました。ところが、光の輪の内側に現れた「ラジアルアーク」と呼ばれる光の筋が、
ブラックホールの重さを量る重要な手がかりを与えてくれました。そして、思いがけず、宇宙の奥底から怪物が姿を現したのです。
宇宙の地図を書き換える可能性
この発見は、銀河の成長とブラックホールの進化の関係を考え直すきっかけとなる可能性があります。ブラックホールを始めとする宇宙の地図は、今後の観測で大きく塗り替えられるかもしれません。
もし、太陽の360億倍ものブラックホールが、私たちの銀河の中心にあったとしたらどうでしょう。天の川銀河の様相は今とは全く異なっていたかもしれません。幸いこの巨獣は、50億光年も彼方。私たちに直接の影響はありませんが、その存在は宇宙のダイナミックさを強烈に物語っています。
宇宙はまだまだ驚きに満ちています。今回の発見は、まるで巨大な化石を発掘したかのように、遥か彼方に眠る巨獣の姿を浮かび上がらせました。次に見つかるのは、いったいどんな宇宙の謎なのでしょうか。
(画像)ハッブル宇宙望遠鏡の画像から、研究チームが作成したコズミック・ホースシューの合成画像。