ブラックホールのジェット噴出、発生の条件が明らかに

名古屋大学の発表資料

ブラックホール。その名前を聞くだけで、ワクワクする人も多いのではないでしょうか。なにしろ、光でさえ逃げられないほど強い重力を持つ、不思議な天体なのですから。

そんなブラックホールから、「ジェット」と呼ばれる物質の噴き出しが観測されていることをご存じでしょうか?しかも、そのスピードはほぼ光の速さ。まるで宇宙が仕掛けたトリックのようです。

「どうして光でさえ逃げられないのに、外に向かってジェットを噴き出せるの?」

この疑問は、長年、天文学者たちを悩ませてきました。

なぞのジェットの正体に迫る

名古屋大学などの国際研究チームは4月10日、ブラックホールの「ジェット噴出」に関する新たな手がかりを見つけたと、発表しました。

鍵を握っていたのは、「XTE J1859+226」というちょっと覚えにくい名前の天体。

これは、ブラックホールと太陽のような恒星がペアになって、ぐるぐるとお互いの周りを回っている連星系です。

1999年から2000年にかけてこの天体は、なんと20日間に5回以上もジェットを噴き出すという活発な活動を見せました。このときのX線と電波データをあらためて解析したところ、ジェットが起きる条件が見えてきたのです。

ジェットの条件は、「円盤のぎりぎりライン」

ブラックホールの周りには、恒星から吸い取ったガスが円盤状に渦を巻いています。これが「降着円盤」です。この円盤の内側、ブラックホールのすぐ外側には「最内縁安定軌道」という、遠心力と重力がかろうじて釣り合うポイントがあります。

研究チームの発見によると、円盤がこの軌道にぎりぎりまで近づき、しかも加速しながら内側へ移動すると、そのタイミングでジェットが噴き出すというのです。

このジェット現象がどのようにして生まれるのかについては、これまでにいくつかの説が提案されてきました。その中でも特に有力とされてきたのが、「ブランドフォード・ナエック機構」と呼ばれる説と、「磁気中心モデル」と呼ばれる説です。

ブランドフォード・ナエック機構では、ブラックホールが持つ回転エネルギーが周囲の強力な磁場を通じて変換され、それがジェットのエネルギーとして放出されると考えられています。

一方で磁気中心モデルは、ブラックホールの周囲にある降着円盤の磁場がねじれることで、エネルギーが解放され、それがジェットの噴き出しを引き起こすという考え方です。

いずれの仮説も魅力的ではありますが、どちらが本当に正しいのか、あるいは別のメカニズムがあるのか――その全容は長らく謎のままでした。

しかし今回の研究は、「どんなときにジェットが発生するのか」という条件を定量的に示した、重要な一歩なのです。

宇宙の謎にまた一歩 これからの期待

この発見により、今後はジェットの発生するタイミングを予測できる可能性も出てきました。それはつまり、ジェットの正体にさらに近づけるということ。そして、ブラックホールという極限の環境を利用して、宇宙の法則そのものを探ることにもつながります。

ブラックホールのジェット――それは、宇宙の中で、最も激しく、最も謎めいた現象のひとつ。この現象を解き明かすことは宇宙の様々な問題を解く重要な手がかりになっているのです。

※写真は (c) 名古屋大学宇宙地球環境研究所 のプレスリリースから。今回の研究の概要図。

コメントを書き込む