太陽系形成の証人 彗星から読み解く過去

2020年7月に観測されたネオワイズ彗星。

 音もなく夜空に走る光の筋、流星。普段は1時間見上げていても数えるほどですが、ときには数十個現れることがあります。流星群です。このような流星群の多くは彗星と深いつながりがあります。

 彗星は恒星がきらりと輝くのに対してぼんやりと滲み、ときとして長大に伸びる尾が見える天体です。数年の間隔で現れるものもあれば、一度きりのものもあります。

 古今東西、歴史上でも最も有名な彗星はハリー彗星(ハレー彗星)でしょう。紀元前後から出現の記録があるほか、初めて探査機が近づいてその姿が明らかになった彗星でもあります。その後探査機が送り込まれたいくつかの彗星のデータから、それぞれの個性や彗星共通の特徴が明らかになってきました。

彗星とは

 彗星は小惑星と同じく小天体に分類されます。小惑星が岩石や金属でできているのに対して、彗星の本体は氷です。それも泥や砂が混ざったような真っ黒に近い氷。すべすべからはほど遠く、角張った氷が転がるごつごつした表面や、大小のクレーターが撮影されています。

 太陽に近づくと温められて融け始め、ガスになった物質が噴き出して周囲に拡がります。泥や砂のようなものも塵として一緒に出ていきます。この様子を地上から眺めるとぼんやりと滲んだ姿に見えるのです。また、拡がったガスや塵は太陽からの風や光に押されて太陽と反対側に流れ出します。これが彗星の尾です。

彗星の誕生

 ところで、太陽系の誕生は約46億年前であることが突き止められています。小天体もその頃誕生しました。というより、このような小天体が材料となって惑星などの大きな天体ができたのです。

 小天体は互いに近づいたり衝突したりして徐々にその分布や姿が変わっていますが、多くが46億年前の環境を伝える情報を物質として保ち続けています。

 水や二酸化炭素などの氷になりやすい物質が、ガスのままでいる暖かい場所で誕生したのが小惑星、凍りつく冷たい場所で誕生したのが彗星です。

太陽系形成の証人

 もともと彗星は木星程度の距離から外側にたくさんありましたが、時間とともに遠くに追いやられ、いまではおおよそ1万天文単位(地球太陽間の1万倍)より遠い空間に球殻状に散らばっていると推定されています。この「彗星の巣」を「オールトの雲」と呼びます。

 互いに近づくなどの何かのきっかけで軌道が変わると、オールトの雲から太陽の近くまでやってきます。これが彗星です。46億年前の物質を噴き出すこの天体を見逃す手はありません。太陽系が誕生した時代を探ろうと、観測装置を装着した望遠鏡や探査機を駆使して探究します。

 こうして太陽系誕生の頃の環境や物質の分布などが明らかになってきました。どのような分子雲(恒星の材料)から生まれたのか、超新星爆発が近くであったのかなどを語る太陽系形成の証人として、彗星はこれからもさまざまな情報を提供してくれることでしょう。

 ところで、太陽の周りを巡るようになった彗星起源の塵の群れに地球が飛び込むと、流星群が現れます。その光は46億年の時を経て放たれる最期の輝きです。願い事をすれば叶う・・・ような気がしてきませんか?

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