
秋の夜空を見上げると、ひときわ目立つひとつ星、それがみなみのうお座のフォーマルハウトです。いわゆる秋の星座としては、唯一の1等星ですので目立つはずです。
そしてふと考えてしまうのが、この星の名前「フォーマルハウト」、カタカナで表すと星の名前としてはかなり長いですよね。
フォーマルなハウト?ハウトって、何だろう?
実はこの星の名前の由来は、アラビア語、すなわちイスラム天文学にあるのです。
フォーマルハウトとは
みなみのうお座のフォーマルハウトは、アラビア語由来の星名です。
アラビア語での呼び方の「ファム・アル=フート・アル=ジャヌービー」が変化して「フォーマルハウト」になりました。
意味は「南の魚の口」で、みなみのうお座の魚の口あたりにある星です。つまり、星座をそのまま表わしています。
▼星の名前はこちらでも▼
中世ヨーロッパにおけるイスラム文化とは
中世のイスラム文化圏は西欧から見ると、先端技術の地域でした。科学的な分野において、非常に進んだ地域と認識されていました。天文学や占星術も例外ではありません。
一方でアラビアンナイトに代表される、神秘的な側面も持つアラビアのイメージも相まって、西欧ではアラビア語を由来とする星々の名前が浸透していきました。
たくさんの星や星座の名前がイスラム天文学、すなわちアラビア語で付けられました。それが現代天文学でも正式名として採用されています。
それではどのような星がアラビア語由来なのか、紹介しましょう。
アラビア語が語源の星々
アラビアの地域は低緯度ですので、見え方がヨーロッパや日本とは違います。それでも、冬の華やかな星々はアラビア世界でも目をひくようです。
オリオン座の星々
オリオンはギリシャ神話に登場しますが、オリオン座を構成する数々の星たちは、アラビア語由来の名前を持ちます。
ベテルギウス、リゲル、三ツ星(左からアルニタク、ミンタカ、アルニラム)、左下のサイフは全てアラビア語由来です。
右上のベラトリックスだけが、ラテン語由来というのも面白いですね。
アルデバラン
おうし座のアルデバランもアラビア語由来です。「アル=ダバラーン」で、意味は「後に続くもの」、昴の後に続いて登場することから名づけられました。和名の「後星」と同じ意味で、アラビア文化でも昴は基準なのですね。
もちろん夏の星座の星々も、アラビア語由来のものがたくさんあります。
アルタイル
彦星でおなじみのアルタイル(わし座)もアラビア語由来の名前で、「アン=ナスル・アッ=ターイル」から来ています。意味は「飛んでいるワシ」です。
ベガ
織姫星のベガ(こと座)はアラビア語の「アン=ナスル・アル=ワーキア」が語源で、意味は「降りている鷲」です。アルタイルと完全に対をなしています。「ワーキア」が「ヴァーキア」となり、それが「ヴェガ」へと変化しました。
デネブ
白鳥座のデネブもアラビア語由来です。「ザナブ・アッ=ダジャージャ」で、冒頭の「ザナブ」が「デネブ」になりました。意味は「めんどりの尾」ですが「ザナブ」の部分が「尾」です。白鳥の尾の部分がデネブなので、ふさわしい名称ですね。
そして、最後にもうひとつご紹介します。
アルゴル
ペルセウス座のアルゴルは、アラビア語で「人喰鬼」を意味します。変光星のアルゴルが不気味であることと、ペルセウスが退治したメドゥーサの首の位置に星があることから、この名前が付いたようです。
イスラム文化と西欧文化
イスラム天文学、アラビア文化が現代の天文学に大いに寄与していることが、星の名前の由来を調べただけでもわかります。
ところで、アラビア語由来の星々の中には、アルデバラン、アルタイル、アルゴルなどがありますね。
星の名前でなくてもアルカリ、アルコール、アルゴリズムなど「アル」の付く単語はアラビア語由来が多いようです。
アラビア語のアルは英語では「the」にあたります。そのため、アルで始まる言葉が多いのです。星々の名前も例外ではありません。