
春に東の夜空を見上げると、そこには巨大なドラゴンが姿を現します。
もちろんそのドラゴン、すなわち龍は星々をつなげた星座なのですが、そんな星座があったかな?と思いますよね。
私たちが普段対象にしている星座は、西洋由来のものです。春の星座はおとめ座やしし座が有名ですね。
しかし星座は、中国にも存在します。龍は中国の星座なのです。
東方の空に昇る巨龍:二十八宿と春の息吹
西洋の星座がオリオンやしし座といった具体的な形を象るのに対し、古代中国の天文学は、天球を四つの大きな区画「四神(ししん)」に分けました。
その筆頭が、春を司る「東方青龍」です。
この巨大な龍は、「おとめ座」から「さそり座」にかけての広大な領域に横たわっています。中国の星座観では、星々を細かく分けた「宿(しゅく)」という単位を用います。
月の通り道に存在する星々のことです。
全部で二十八宿ありますが、春を受け持つのはそのうちの七つです。
龍の身体は七つの宿(角・亢・氐・房・心・尾・箕)で構成されています。
龍の目覚め:角宿の出現
春の訪れを象徴する天体現象に「龍台頭(りゅうだいとう)」があります。
旧暦の2月2日頃、冬の眠りから覚めた龍が、まずその「角(つの)」を東の地平線に現す様子を指します。この「角」に含まれる星の1つが、おとめ座の1等星スピカです。
青白い真珠のように輝くスピカが夜空に昇る頃、人々は農耕の季節が始まったことを悟ります。
そしてこの龍の身体は天の川に沿うように昇ってきます。
龍は恵みの雨を降らせる水神でもあり、その出現は生命が芽吹く合図でもあったのです。
では、青龍の身体を形づくる七つの宿を見てみましょう。
| 角 | かく | 龍の角 | おとめ座のスピカ付近 |
| 亢 | こう | 龍の喉 | おとめ座の足元付近 |
| 氐 | てい | 龍の胸 | てんびん座付近 |
| 房 | ぼう | 龍の腹 | さそり座の頭部付近 |
| 心 | しん | 龍の心臓 | さそり座のアンタレス付近 |
| 尾 | び | 龍の尾 | さそり座の毒針付近 |
| 箕 | き | 龍の尾の先端 | いて座の一部 |
宇宙を貫く五行の色彩
なぜ青い龍なのでしょうか。そこには中国古来の「五行説」が深く関わっています。
五行において、春は「木」の属性を持ち、その象徴となる色は「青(緑)」です。
古くは青と緑は大きな区別がなく、緑色の物を、青と表現してきました。 東は太陽が昇る、いわば生命の源泉。
そこを守護する聖獣として、青い鱗(うろこ)を持つ龍が配されました。
このグループをもう一度整理しましょう。
季節:春
色:青
物質:木
方角:東
惑星:木星
神獣:龍
なお、青龍は「蒼龍」とも呼ばれます。「蒼」も青い色を表し、同じ意味で使われる漢字です。
夜空に重なる2つの星図
私たちが普段見慣れている「おとめ座」や「さそり座」、そこには巨大な龍の頭部や心臓が脈打っていると信じられています。
例えばさそり座のアンタレスは、蠍の心臓と考えられていますが、青龍でも「心(しん)」、つまり心臓にあたります。
偶然にも東西の星座観が、同じ星を「心臓」と見なしていたのです。
赤い巨星が怪しく光る様は、生命力の象徴でした。
西洋の神話が英雄や王女の物語を夜空に投影したのに対し、東洋の星座は季節の循環や宇宙の調和、そして自然への畏怖を龍という形に託したと言えます。
春の夜空に、スピカを探してみましょう。それは西洋の乙女の手元を飾る光であると同時に、かつて東洋の空で春の訪れを告げた龍の「角」でもあります。
現代においても、私たちの頭上には、西洋と東洋、2つの星図が重なり合って広がっているのです。






